海藻に着目した研究例
さまざまな未利用資源、たとえば海藻、ペーパースラッジ、廃油などを微生物の餌にして、微生物に有用化合物をつくってもらうことで、これらの未利用資源を有効利活用する技術を開発し、持続可能社会構築へ貢献する、得られた知見を基盤としてさらなるフロンティアへと飛躍する、そのような基本的な想いで研究を進めています。
本稿では未利用資源として、特に海藻に着目した研究例をご紹介します。海藻には緑藻、紅藻、褐藻がありますが、褐藻です。もともと、褐藻の主成分であるアルギン酸（ネバネバ成分）とマンニトール（乾燥昆布の表面に見られる白い粉）をパン酵母の餌にしてアルコールをつくらせる研究をしていましたが、5年前に石川県立大学に着任しまして、石川県能登半島に大量の褐藻が漂着していること、その漂着褐藻の下を掘るとたくさんのハマトビムシという小動物が文字通り跳び跳ねていること（図1）を知りました。
ハマトビムシを研究室に持ち帰り、ハマトビムシが褐藻を餌として食べている証拠を押さえました。次に褐藻を消化分解している腸管に着目すれば、褐藻の有効利用に役に立つ情報が得られるのではないか、と考えて研究に着手。褐藻を食べているハマトビムシで転写されているmRNAをRNA-seqという技術で調べることにより、褐藻を分解する酵素の候補遺伝子を見つけています。今はその機能を調べようとしています。このような酵素は褐藻の有効利用に応用したいのですが、一歩下がって、邪魔な漂着褐藻を分解除去する技術に応用できないかなとも考えています。能登半島の所々では、漂着褐藻が景観を損ね、その処理にかなりの労力を割いておられると伺っていますので。
図１ 能登半島柴垣海岸での漂着褐藻とハマトビムシ（枠内：体長8 mmほど）
可能性を秘めた微生物
微生物ですが、石川県に着任してからは、Yarrowia lipolytica という油を貯める酵母を対象としています。そう、この酵母はアルギン酸を食べられないので、食べられるように遺伝子を組み込むのです。アルギン酸の分解物を餌にして、少量ながらも油をつくってくれるようになっています。この油は大豆油に近い組成でした。ゆくゆくは褐藻から大豆油（のような油）を生産したいと考えています。できた油は、原理的には食用油、バイオディーゼル燃料として利用可能で、ということは持続可能な航空燃料（SAF）の原料としても使えます。色んな可能性を秘めた微生物を前にすると、野望が尽きることはありません。
このたびの災害により亡くなられた方々に深く哀悼の意を表しますとともに、被災されました皆様に心よりお見舞い申し上げます。本稿で紹介した研究の活用も含め、自分にできることで、被災地の復興に少しでもお役に立てればと思います。