研究紹介

食虫植物における捕虫機構の解明および利用

生物資源工学研究所 准教授
濵田 達朗

食虫植物ウツボカズラにおける捕虫器溶液のプロテオーム解析

食虫植物は養分の乏しい湿地などに生息し、葉が特殊化した捕虫器によって昆虫などの小動物を捕らえます。捕らえられた獲物は捕虫器内に分泌される消化酵素類によって分解され、その分解産物は食虫植物の成長のための養分として利用されます。食虫植物の一種であるウツボカズラは東南アジアを中心とした熱帯地域に生息し、葉の先端から伸びたつるの先にある袋状の捕虫器(写真)により昆虫などの獲物を捕らえます。その捕虫器の中には消化酵素を含む溶液が満たされており、袋の中に落ちた獲物はその溶液中で分解されます。我々の研究グループは、ウツボカズラの捕虫器溶液に含まれているタンパク質をプロテオーム解析により同定しました。ウツボカズラ捕虫器溶液には、獲物のタンパク質を分解するプロテアーゼ(ネペンテシン)やキチン質を分解するキチナーゼ、植物病害応答タンパク質であるペルオキシダーゼやグルカナーゼ、タウマチン様タンパク質等が含まれていました。ハエトリソウやモウセンゴケなどの他の食虫植物の捕虫器分泌溶液においてもプロテオーム解析によるタンパク質の同定が行われ、ウツボカズラと同様のタンパク質を分泌していることが明らかになりました。これらの結果から、食虫植物においては、植物がもともと持っている病害応答のために分泌されるタンパク質・酵素類が、捕らえた虫を分解するためのものとして利用されるようになったと考えられています。

ウツボカズラ捕虫器溶液由来プロテアーゼ「ネペンテシン」の植物での生産

ウツボカズラの捕虫器溶液に含まれているアスパラギン酸プロテアーゼ「ネペンテシン」は、動物由来のペプシンと比較して、常温で長期間、酵素活性を維持するといった優れた特徴を持ちます。私たちの研究室では、一般的な植物(タバコ)を宿主として、このネペンテシンを人工的に生産することに成功しました。

食虫植物はどのようにして捕らえた獲物を認識しているのか?

ハエトリソウでは、二枚貝状の捕虫器で昆虫などの獲物を挟み込んで捕らえると、その後、獲物を分解するための消化酵素類が捕虫葉内に分泌されます。また、ウツボカズラの捕虫器に獲物である昆虫の外骨格成分を添加すると、ペルオキシダーゼの分泌や遺伝子の発現などが誘導されます。食虫植物はどのようにして、捕虫器内における獲物の存在を感知して、消化酵素を分泌したり、遺伝子を発現したりしているのでしょうか。現在、私たちの研究室では、ウツボカズラやハエトリソウを対象に、遺伝子組み換えやゲノム編集等の技術を駆使して、この答えにたどり着くための研究を行っています。