教員紹介

雑草を使った循環型エネルギーシステムで災害に強い地域を目指す

ババ ヤスノリ
馬場 保徳
生物資源工学研究所 講師
岐阜県出身。民間の食品メーカーでの研究員を経て、東北大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て、平成28(2016)年に本学助教、令和2(2020)年から現職。令和4(2022)年に研究成果に基づき環境微生物研究所(株)を設立、代表取締役社長を兼任。研究分野は環境微生物学。令和元年度農林水産省若手研究者賞を受賞。

どのような研究をされているのですか。

雑草や廃棄野菜をメタン発酵させ、都市ガスの主成分であるメタンガスを作り、それを発電に活用して地域の防災に役立てるシステムの研究をしています。メタン発酵とは牛の胃の中にいる微生物を利用して雑草などを発酵させる技術のこと。この微生物は牛の胃から取り出すと死滅してしまうのですが、当研究室では微生物を人工装置内で培養し続ける独自技術を開発しました。メタンガスを電気に変換できる小型発電機も開発し、メタン発酵時に出る残さ液の肥料化にも取り組んでいます。

この研究を始めたきっかけは2011年に発生した東日本大震災です。当時、東北大学で食品廃棄物を発酵させてメタンガスを作る研究をしていたのですが、震災直後は食品廃棄物の入手が困難に。窓の外を見ると、雑草だけはたくさん生えていて、「どこにでもある雑草を使ってエネルギーシステムを作りたい」と考えました。震災時はライフラインが分断され、携帯電話の充電が切れると家族と連絡がとれない。しばらくは温かいご飯
も食べられず、夜は明かりがなく真っ暗な状態。同システムがあれば、これらの不便な状況を解決することができます。

2021年には石川県のスタートアップビジネスプランコンテストいしかわで本システムを提案して優秀起業家賞をいただき、翌年には環境微生物研究所株式会社を立ち上げました。2023年には本システムを「エコスタンドアロン」と名付け、民間のショッピングセンターに設置しました。ショッピングセンターでは有料で処分していた廃棄野菜をメタン発酵の原料として活用できますし、災害が発生した場合には炊き出しや充電ができる防災拠点としての役割も果たせます。このように停電を伴う災害時においてもガスや電気を自立生産できるように、という願いを込めて「自立する」という意味を持つ「スタンドアロン」をシステム名に用いました。

令和6年能登半島地震における活動について

2024年1月1日の能登半島地震後、「エコスタンドアロン」の小型版を作製し、能登に持って行ってもよいか、然るべき所に相談しました。しかし、道路が寸断され、交通量が制限された状況下においては、自衛隊などの大型トラックによる輸送を優先するべきであり、私たちのような小口支援はかえって迷惑になりかねないとの見解でした。すなわち、「エコスタンドアロン」は、災害が起きてから現地に持ち込むのではなく、平常時から想定被災地に設置されて稼働していないと、いざ災害となった際に迅速に役立つことができないということです。自分が経験した2011年のつらい被災生活を、もう他の誰にも経験してほしくないという想いで、「エコスタンドアロン」を開発しました。しかし、13年前の東日本大震災と同様のことが目の前で起きているにも関わらず、まったく役に立てていません。本当に言葉で言い表せない無念さ・悔しさがあります。長い被災生活は、冷たい寝床と食事が原因で、体力のない高齢者から命を奪っていきます。これを災害関連死といいます。「エコスタンドアロン」があれば、温かい食事と暖房器具により、冬の寒さを和らげることができます。その結果、災害関連死で亡くなる方を救えるかもしれません。「エコスタンドアロン」の普及が命を救うことに直結すると信じ、各地への普及を急ぎます。ぜひ導入を検討してくださる方がいらっしゃいましたら、ご連絡をください。