研究紹介

eLearningによる個人学習支援の可能性の探求―数学補習eLearningシステムの構築と教材の開発―

教養教育センター 准教授 
稲葉 宏和

石川県立大学は農学系の大学です。工学系ではないので、学生の学習歴、受験科目や入学時のプレースメントテストから数学の学力が不足している学生がいくらか見受けられ、数学に苦手意識を持つ学生が多くいます。
しかし、理系専門科目を学習する際、専門書の中の数式を理解する数学の力が必要です。
そのためには、数学が不得意な学生が講義の内容を理解するには補習が有効であると考えられます。補習は少人数対面で行うのが理想です。しかし、実際には、学生と教員の時間を合わせることが困難です。そこで、時間と場所を選ばないという利点を持つeLearningで補習を行うことを試みました。それにより、いつでも・どこでも・何度でも学習することが可能となります。
そのための数学補習eLearningシステムの構築と教材の開発に取り掛かりました。
eLearningシステムとして、石川県立大学に既にあるLMS(Learning Management System)のMoodleを利用しました。Moodle上に数学の補習コース・教材を作成しました。学習方法として、どのような式変形をしているかを考えながら書くよう指示しています。
教材の基本的な構成は、図1に示すように、項目毎に「解説」と「問題」、「挑戦」の組にしました。図2に「問題」の例を示します。このように、「解説」だけでなく、穴埋めの「問題」、「挑戦」を用意することにより単調さを避けています。
しかし、数学のeLearningを行う上で、いくつかの問題点が存在します。
まず、数学固有の記号が多いためeLearningで扱うことが難しい点です。Moodleでは、TeX形式(TEX:テキストベースの組版システムで数式の処理を得意とする)の記述が可能であるため、それを利用し数式が表示できるようにしました。
次に、「問題」の解答も数式で記述する必要があります。数学が不得意な学生には、TeXの解答入力方法の取得は非常に負担が大きい。数学以外の障壁は極力ないほうがよいので、答えの記述にTeXを必要としない数字の穴埋めや多肢選択としました。
今までの数学のeLearningにおいて「問題」形式では、最終の解答のみを入力するものが大半でした。単に最終的な解答のみを答えさせる場合には、自力で解答にたどり着く学力が必要です。しかし、数学の不得意な学生は、どのように取り組んでよいのかわからない、途中でわからなくなり最終の解答にたどり着かないことが多いので、有効ではないと考えられます。そこで、解答プロセスの穴埋めをすることにより、手順をなぞることで計算を実際に行わせるようにしました。それを通して、計算スキルを上げ、テキストや専門書を自学自習できる学力を身に付けることを目指します。
このプロセスをたどる方法では、解答方法が煩雑になるという問題点があります。数学記号の入力方法の改善や解答方法の煩雑さの解消が今後の課題となります。
この数学の補習教材の特徴は、「問題」などの小テスト形式では、単に最終解答だけでなくプロセスを問う設問を用意したという点にあります。自力で解答にたどり着けない学生でも、小テスト形式の穴埋め問題を解答することにより、プロセスをたどり、解法を理解することができように工夫しています。

図1 教材の基本的な構成の例
図2「問題」の例