研究紹介

腸の健康が身体の健康を制御する~腸管機能・腸内環境を作用起点とした食品機能性に関する研究~

食品科学科 准教授 
東村 泰希

口から入った食物は、食道、胃を経て腸(十二指腸→空腸→回腸→結腸→直腸)へと流れていきます。つまり消化管は食物と直接的に接する内なる外界であり、他の臓器に比べ、食品の持つ機能性を発揮しやすい環境であると考えられます。腸は単なる消化・吸収器官に留まらず、外界(腸管腔)と内部(生体内)を隔てるバリア組織としての機能や、消化管ホルモンを産生する内分泌器官としての側面など、実に多彩な機能を秘めていることが明らかとなってきています。また、腸には多くの免疫細胞が集積しており、体中の約60%の免疫細胞は腸に存在しています。さらに、腸(特に大腸)の管腔内には多種多様な微生物が群生しており、排便活動や免疫寛容といった腸管機能を適切に保つことで、宿主である私たちの健康状態および病態形成に深く影響しています。そのため、腸は「全身の司令塔」として考えられるようになり、その不調は腸疾患だけでなく、糖尿病や肥満、うつ病など様々な疾患の引き金となっています。
代表的な腸疾患として炎症性腸疾患(大腸炎)があります。本邦における大腸炎の患者数は年々増加傾向にあり、非常に大きな社会問題となっています。残念ながら、なぜ大腸炎が発症するかについてはまだわからないことが多いのですが、大腸炎患者が増加する背景には、食習慣の劇的な変化、すなわち低繊維・高タンパク質・高脂質を中心とした食の欧米化が幾ばくかの影響を与えていることは紛れもない事実であり、大腸炎の予防や病態制御に対して食習慣の改善や食由来因子といった食品科学的アプローチが関心を集めています。
大腸炎は遺伝的背景や環境素因などの多くの要因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患ですが、中でも「免疫細胞の異常な活性化」や「腸バリア機能の脆弱化」、「腸内細菌叢の異常」が引き金になっていると考えられています。私たちの研究室では、このような大腸炎の引き金になるような現象に注目し、培養細胞やマウス、またモデル生物として知られる線虫(カエノラブディティス・エレガンス)を用いて研究しています。これまでに免疫細胞の異常な活性化を正常化させる因子を同定することで、大腸炎発症の根本的な理解に貢献してきました。また、食品機能学的アプローチとしては、野々市市特産のヤーコンに注目しており、ヤーコンと腸管機能・腸内環境についての研究も進めています。今後も、腸と食品についての研究を進めることで、大腸炎や大腸がんといった腸疾患に対する食品を用いた予防法の確立に貢献したいと考えています。

ヤーコン収穫の様子
野々市市特産のヤーコン
  • マウスの大腸切片の写真
  • 研究に用いる線虫