研究紹介

微生物で生薬の希少成分を生産

生物資源工学研究所 准教授 
南 博道

高等植物は、ストレス耐性、病害抵抗性などにおいて様々な二次代謝産物を産生、蓄積することが知られています。これらの二次代謝産物は、大きくアルカロイド、テルペノイド、フェノール性化合物(フェニルプロパノイド、フラボノイド)の3つのグループに分類され、香辛料や染料、香料、医薬品等として我々の身の回りに様々な形で利用されています。多様な二次代謝産物のなかでも、アルカロイドは少量で顕著な生理活性を示すため、市販されている医薬品原料として非常に高い需要があります。一般にアルカロイドは光学活性を有し化学構造が複雑なために、化学合成による大量生産は困難であり、植物体からの抽出が主な生産方法となっています。しかし、植物体に乾燥重量の数パーセント程度しか含まれていないものも多く、植物体の生育には数ヶ月~数年を要するため、大量に供給する方法が検討されています。
微生物発酵法により、様々な有用物質が生産されていますが、これまではアミノ酸等の構造が比較的簡単なものや、数段階の反応を利用した物質変換による生産が中心となっていました。近年、遺伝子工学の進歩により、グルコース等の安価な物質から複雑な構造を有する化合物の生産が可能となっています。私は、医薬品原料として利用されている植物アルカロイドを大腸菌に生産させる研究を行っています。大腸菌は生体機能が詳細に解明されている微生物であり、アミノ酸や核酸、医薬原料など人類にとって有用な物質の生産基盤となっています。これまでの研究で、植物のアルカロイド生合成酵素と微生物由来の酵素を組み合わせて大腸菌に導入することで、アルカロイド発酵生産システムの確立に成功しています。確立した生産システムに種々の生合成酵素を導入することで、植物体に微量にしか存在しないアルカロイド等の生薬有効成分の効率的な生産が可能であり、効果的な医薬用漢方製剤としての使用が考えられます。さらに、生合成酵素の組み合わせを検討することで、植物では産生されない新規生理活性物質の生産が可能です。これら植物二次代謝産物の微生物発酵生産の成功は、含有量が少ないために生理活性の明らかではない化合物や新規化合物の生理活性の解明につながるものです。今後、より実用化に向けた生産システムが確立されることで、需要の高まる医薬品への安定した供給方法になるだけでなく、創薬をはじめとした様々な分野に大きく貢献することが可能であり、微生物発酵における新たな展開が期待されます。

ジャーファーメンターによるアルカロイド生産
微生物発酵法により生産した粗精製アルカロイド粉末