研究紹介

脂質と健康 未来を担っていく県大学生諸氏に警鐘を発する

食品科学科 教授
齋藤 洋昭

世界に誇る長寿社会の日本ですが、その裏には沢山の問題もあります。厚生労働省によると、病気による死因は、1960年以降、50年以上の長きにわたって、悪性新生物(がん)と循環器系疾患(脳血管疾患、心疾患)が上位を占めています。それにつれ医療費は毎年1兆円ずつ増加し、平成26年度に40兆円を超えました。また、介護費用も増加の一途をたどり、平成28年度には10兆円規模になっています。なぜ、日本人にこのような疾患が発生し、増加し、近年では常態化してきたのでしょうか。その原因の一つに我々の食生活の変化が挙げられます。高度経済成長期以降の食生活の欧米化に伴い、畜肉や揚げ物から脂質が多量に摂取され、特にリノール酸などのn-6高度不飽和酸の過剰摂取が肥満を来たし、がんや循環器系疾患の起因とされています。
私は学生時代には有機合成を専門としていましたが、水産研究所に入り水産物脂質の研究を一から始めました。以来30年にわたり脂質研究を続け、県大に移ってからは対象を若干広げましたが、きっかけとなった水産脂質に何か運命的なものを感じています。今までに、イコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)、マリンセラミド、アラキドン酸などを分析し明らかにしてきました。その間にEPAは医薬品、DHAは特定保健用食品素材となり、水産物脂質が実用化されました。最近、EPAやDHAなどのn-3不飽和酸の誘導体がn-6不飽和酸との拮抗作用ばかりでなく、積極的に病態の改善を行っていることが分かってきました。医薬品などの実用化で一応の終点となりましたが、また新たな起点が見えています。間もなく、有用な生理機能が見いだされ新薬が開発されることと思います。日々新しいこの学問を続けてきて良かったし、今後まだまだやるべきことがあると、静かな興奮や闘志が沸き上がっています。
現在栄養成分の中で最も注目されているのが脂質です。脂質摂取量や脂質の質の管理に関心が集まっていますし、今後も研究の深化がますます必要とされています。最近では、高齢者が自立した生活のできる健康寿命の重要性が言われ、食生活の改善から生活習慣病を減らし、健康寿命を延ばす試みも各地でされています。ただし、一方で、若者世代の脂質摂取量に警鐘も鳴らされています。厚生労働省の食事摂取基準の推奨値は全エネルギーの25%程度ですが、ファストフードの氾濫と若年層の過剰摂取に危惧の声が上がっています。その観点からも、しっかり勉強し食品科学を修めた学生諸君の情報発信を期待しています。

カツオは全身DHAの塊りで、その内臓などの残さいからDHAが抽出されています。ただし、各国の乱獲もあり資源量は近年減少しています。
加賀野菜金時草の脂質はEPAやDHAなどの前駆体であるα-リノレン酸を主成分として含みます。ヒトはα-リノレン酸から容易にEPAやDHAを生合成できます。