教員紹介

自然は社会を支える「グリーンインフラ」トキ放鳥をきっかけに能登の地域活性化に期待

ウエノ ユウスケ
上野 裕介
環境科学科 准教授
福岡県出身。北海道大学大学院水産科学研究科博士後期課程、単位修得後退学。博士(水産科学)。筑波大学、新潟大学朱鷺・自然再生学研究センター、国土交通省国土技術政策総合研究所などを経て2017年から現職。専門分野は生態学、緑地環境学、環境システム学など。

どのような研究をされているのですか。

人と自然が共にある持続的な自然共生型の社会をつくりたいという思いがあり、これまで新潟県の佐渡島でトキの生態研究や保全活動、国土交通省で自然環境保全の研究や実務などに従事しました。それらの経験の中で、自然そのものが社会を支えるインフラ(社会基盤)であるとする「グリーンインフラ」の考え方にたどり着き、現在は自然を活用して社会を豊かにする研究や普及啓発、実践的活動に取り組んでいます。

佐渡でのトキの研究は、餌場や営巣地の発見、調査、分析など、朝から晩までトキの生態調査に没頭していました。そしてそれを基に、トキの生息環境や適地を明らかにし、地元の方にトキが暮らしやすい環境づくりを提案したり、トキと自然を活用した地域活性化の取り組み、そこで生活する人たちの意識の変化なども研究しました。当初、佐渡ではトキは田んぼを荒らす害鳥だという認識が強く、放鳥についてマイナスの意見もありました。しかし2008年の放鳥以降、朱鷺色の羽で大空を舞うトキの姿に、農家の方々からもトキに対する前向きな意見が出始め、自然再生への動きが高まりました。また近年は、観光客や移住者が増え、カフェ、サイクリングショップといった商店が開業したり、「人が豊かにトキと暮らす黄金の里山・里海文化」として佐渡がSDGs未来都市に認定されるなど、トキをきっかけに環境・社会・経済的な好循環が生まれています。

石川県は能登で2026年度以降のトキの放鳥を目指していますが、佐渡での経験から、トキにも人間にも負担が少ない持続可能な環境づくりの提案や現地調査、地域活性化など、お手伝いできることがあると思います。

佐渡の空を飛ぶトキ。トキも人も暮らしやすい島づくりが進む
休耕田を利用したビオトープ(生物の生息場)

今後の抱負をお聞かせください。

自然共生型社会の実現に向けて、能登をはじめとする自然豊かな土地の価値をもっと引き出し、発信することで人々の暮らしが豊かになる地域をつくりたいです。現在、珠洲市を拠点に行政・大学・企業・市民が連携して持続的な地域づくりを目指す「能登SDGsラボ」に参画し、里山里海の資源を生かした地域循環型の社会・経済システムの構築に協力しています。トキの放鳥も能登活性化のきっかけの一つにしていきましょう。