研究紹介

夏の農業ハウス内に電力なしで冷熱源を作り出す技術の開発

環境科学科 准教授 
百瀬 年彦

夏の農業ハウスは、過酷な温度環境です。でも、その農業ハウスの直下には、未利用エネルギーである、地中熱が存在します。この地中熱は、夏は冷熱源ですから、これを地表に持ってくれば、ハウス冷房に利用できます。地表-地中間の熱輸送を、いかにコストをかけずにスムーズに行えるかが重要なポイントです。
地中熱利用は、通常、液送ポンプを用いて地表-地中間の熱輸送を行います。例えば、地下水をくみ上げる方法や、U字型チューブを地中に鉛直に埋設し、そこに液体を循環させて地中から採熱したり地中へ排熱したりする方法が挙げられます。しかし、こうした方法はランニングコストがかかりますし、設備コストも高くなるため、農業分野における地中熱利用はあまり普及していないのが現状です。私たちの研究室では、土が熱輸送装置の新素材となりうることに着目し、土を利用した低コストの熱輸送装置の開発を目指しています。
土は、熱を伝えにくい物質です。このため夏の地表は熱くなっても、地中は冷たい状態に維持されるわけです。ところが、土を適度に湿らせて減圧すると、その土は金属のように熱を伝えやすい物質に変わります。これまでの研究で、減圧下における土の熱伝導率は、ステンレス鋼のような金属と同程度にまで増大することが見出されました。さらに、この高い熱伝導率が得られる土の中では、高温側から低温側への大きな水蒸気輸送(潜熱輸送)があり、それと同時に、低温側から高温側への液状水の戻りがあることも明らかになりました。高温側と低温側とで、水が相変化をしながら循環し、熱を伝える現象は、工学分野でよく知られるヒートパイプの作動原理と同じです。このため、減圧下における土の熱伝導率の劇的な増大は、土のヒートパイプ現象と呼ばれます。
土のヒートパイプは、土と水の混合物を容器に充填し、それを減圧密閉すれば完成です。実際に、小型の円筒容器(直径25cm, 長さ30cm)を用いて土のヒートパイプをつくり、底面を20℃に維持しつつ、夏のビニルハウスに設置してみました。その結果、50℃を超えるビニルハウス内において、ヒートパイプ上面は27℃に保たれることを確認しました(図1)。円筒容器の上面から底面に向かって、継続的に大きな熱量が移動している証拠です。
今後の課題は、円筒容器の大型化です。これを農業ハウスに鉛直埋設すれば、地表と地中の温度差を駆動力にして鉛直下向きに熱が輸送され、電力なしで農業ハウス内に冷熱源を作り出せると期待しています(図2)。

図1 夏のビニルハウス内におけるヒートパイプの上面温度

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図2 実証試験のイメージ図(左)と土のヒートパイプ現象の模式図(右)