どのような研究をされているのですか。
産学官連携の取り組みとして、今回は2つの研究をご紹介します。
1つは「食品メタボロミクス」です。食品そのものをNMR装置で網羅的に測定し、統計解析して特徴別に分類する研究です。ある食品の集団について数十から数百種類のNMR測定データがあれば、未知の食品のデータと既存データを比較することで、その食品を特徴付けることができます。石川県と他県で生産した野菜では、土壌や気象条件が異なるので、見た目は同じでも成分はわずかに違います。食品の含有成分を網羅的に測定して特徴を浮かびあがらせることで、産地や製法を特定することが可能になります。これは食品ブランドの保護に役立つと考えています。本物に似せた食品が出てきてもNMR測定で真偽を見極めることができるからです。最近、能登の特産品である魚醤の「いしる(いしり)」を測定したところ、原料がイカのものとイワシのものとでは、含有成分に大きな違いがあることが分かりました。さらにニョクマムなど東南アジアの魚醤とも比較すると、イワシ原料のいしるは東南アジアの魚醤と成分的に近いことが判明しました。
2つ目は磁気共鳴画像法(MRI)を用いた食品の非破壊的検査で、食品を切断せずに中身の状態を画像分析する研究です。例えば、青果の選果場で、農産品を切らずに規格分類や虫食いの有無など判別するのに有効な手法です。また、岩ガキをサンプルにMRI測定を先日行いましたが、カキのような食品は外見と中身の量が必ずしも比例するとはいえません。でもMRI測定をすれば、殻付きのまま中身の状態を確認でき、身のつまり具合によって確実に規格分類でき、商品価値も高まります。食材や生産者、業者に対する信頼が上がり、ブランド化にもつながります。現状、1サンプルにつき測定に約40分を要していますが、数秒以内にするのが課題の一つです。
今後の抱負をお聞かせください。
いずれの研究も、食品の生産・製造に関わる方の役に立ちたいと思い取り組んでいます。ブランド食材として売り出すセールスポイントを提供したり、食品の品質管理や保証、偽造防止システムに発展させるなど、活用が期待できます。生産者や食品メーカーと協力しながら、研究を深めていきたいと思います。