教員紹介

石川生まれの幻のサツマイモ「兼六」 新芽は機能性食材としても期待

サカモト トモアキ
坂本 知昭
生産科学科 准教授
博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科助手、名古屋大学高等研究院特任講師を経て、2011年から現職。専攻は作物生理学、植物分子生物学。

どのような研究をされているのですか。

兼六(右)と安納芋(左)の比較

戦前の石川県で誕生したサツマイモ「兼六」の栽培育種、食品加工の研究をしています。兼六は、一時全国に普及したものの、戦中戦後の混乱の中で忘れられた幻のサツマイモ。しっとりとした食感と鮮やかなオレンジ色が特徴です。
私が本学に着任したのは、石川県農業試験場砂丘地農業研究センターで兼六に関する研究が始まった頃でした。収量が少なく肥料を与えても効果がない、加工がしにくい筋が入った芋が多いとのことでしたので、本学の農場で栽培を試みることになりました。結果、生育のポイントは水の量と肥料のタイミングにあると分かりました。苗を植え、根から芋になる数が決まるまでの約2カ月間は水のみをたっぷりとやり、その後、筋が入るのを防ぐために肥料を与えます。一般的に収量を増やす時は、苗の植え付け後すぐに肥料をやり生育を促しますが、その方法は兼六には通用しませんでした。さらに、生育には十分な水が必要であることから、水田での栽培も適しています。水田はその土壌の特徴から湿害が生じやすく、コメ以外の作物を育てることが困難です。しかし兼六なら排水対策の必要はなく、コメと交互に栽培すれば連作障害の心配もありません。
さらに最近の研究で、全国的に人気が高い安納芋のルーツは兼六であるという結論に至りました。つるに含まれるアントシアニンの蓄積を調べたところ組成が一致し、芋に含まれる糖分とカロテンの組成、DNA型も合致しました。安納芋は戦後に栽培が始まったと言われていますが、明確な由来は確認されていません。兼六は戦前に誕生したという記録があるので安納芋の元であると考えることができます。
一昨年、兼六を普及させるため生産者や飲食店、菓子店の店主らと「兼六芋研究会」を結成しました。ケーキや和菓子の材料として活用してもらい、消費拡大を目指しています。ペーストよりも粉末の方が加工しやすいとの意見があり、ニーズに応じたパウダーの開発を進めています。

今後の抱負をお聞かせください。

兼六をきっかけに、サツマイモが糖やカロテンを蓄積するメカニズム、何が食感の違いを決めているかなどのテーマについて、遺伝子レベルで明らかにしていきます。また新芽には便秘解消効果があるヤラピンが豊富に含まれています。新芽の機能性も打ち出すことでさらに認知度を高め、石川県の新たな特産として定着していけばと考えています。