教員紹介

微生物発酵で作るバイオエネルギー 災害時の備えから地方活性化貢献まで

ババ ヤスノリ
馬場 保徳
生物資源工学研究所 助教
キユーピー株式会社、日本学術振興会特別研究員等を経て、2016 年4月から現職。専門は環境微生物学。

どのような研究をされているのですか。

雑草や落ち葉といったごみを微生物発酵させ、都市ガスなどのバイオエネルギーを作る研究です。転機は、2011年の東日本大震災でした。当時、東北大学の研究員として宮城県で勤務していました。その時からバイオエネルギーを研究していましたが、原料にしていたのは主に生ごみ。でも、震災が起き、その日食べる物にも苦労する状況で、生ごみが出るわけがありません。それでは、いざ大きな災害が起こった時にエネルギーを作ることができません。そこで、いつでも、どこにでもあるごみとして思いついたのが、雑草や落ち葉でした。
ただ、問題もあります。たとえ枯れ葉でも、植物の細胞は一つ一つが硬い「細胞壁」に覆われており、微生物はその「壁」を分解することができません。そこで目に留まったのが牧草を主食とする牛。調べると、牛の胃液には、細胞壁を分解できる微生物がいました。実際に、菜種の茎を牛の胃液で処理したものと、手を加えないそのままの状態のものを微生物発酵させて比べると、前者は後者に比べて1.5~2倍多くメタンガスを出していました。その後の研究では、胃液処理の時間を短縮しながらガスの発生量は2倍に増やす仕組みを導き出し、宮城県で実用化研究を行いました。食肉処理施設では、牛の胃液は廃棄処理されます。「ごみ」である牛の胃液を使ってバイオエネルギーを作り出せば一石二鳥です。そんな効率の良さもポイントである牛の胃液を使ったバイオエネルギーは、世界的な関心も高く、昨年11月からはその技術を学びたいというインドネシアの国費留学生を受け入れています。
ただ、牛の胃液は牛の体温である38℃前後の高温でしか微生物発酵しないため、バイオエネルギーを生成できる環境は限られます。前任地の宮城や石川は一年の平均気温が10℃台です。38℃には程遠い。そこで、石川県立大学に着任してからは、10℃台でも雑草を分解できる微生物がいないか調査しています。10℃台で機能する微生物であれば一年中、どこでもバイオエネルギーを作ることができるのです。

牛の胃液を使ったメタンガス発酵の実証実験プラント
ごみを利用したメタンガス発酵の実用化イメージ

今後の抱負をお聞かせください。

大地震に備えて、微生物によるメタン発酵を行う自立型のエネルギー製造拠点を造ろうと決意しています。ごみさえあればガスを作り出せるので、ライフラインが止まってもすぐに困ることはありません。また、日常的な活用も期待できます。例えば、高齢化が進む能登のような地域の公民館など、地方の施設を運営するエネルギーに利用していただけます。住民が持ち寄ったごみから作り出したガスで湯を沸かし、みんなで楽しくお茶を飲むといったように、地域の憩いの場の形成にも役立ちます。実際、九州にはメタン発酵の技術を利用したレストランや直売所を開業させ、賑わう街があります。そんなふうに、この技術を地域活性化にもつなげたいと思います。