研究紹介

耐摩耗性に優れた農業用水路用補修材料の研究

環境科学科 准教授
森 丈久
激しく摩耗した落差工

農業を行うためには水のコントロールが欠かせません。農業に必要な水を貯め、水を農地まで運んだり,余分な水を農地から排出したりする役割を担っているのが農業水利施設です。農業水利施設には、ダム、頭首工(川を堰上げて取水する施設)、用排水機場、用排水路などがあります。我が国で現在までに建設された農業用のダム、頭首工、用排水機場などは約7,000ヵ所、用排水路の総延長は約40万kmに達します。しかし、これらの施設の大部分は、建設から数十年が経ち、老朽化の進行等により必要な機能を発揮できなくなりつつあります。このような状況に対応するため、農業水利施設の状態を診断し、不具合個所があれば補修や補強により施設を長持ちさせる「長寿命化対策」が必要とされています。
石川県内の農業水利施設に目を向けますと、県内有数の穀倉地帯である手取川流域には、七ヶ用水をはじめとする農業用水路が張り巡らされています。手取川流域は地形勾配が急であるため、農業用水路にはたくさんの落差工(流下する用水の勢いを減殺する施設)が設置されています。しかし、これらの落差工は、流水のみならず、流下してくる大量の石礫の影響で著しく摩耗しています。落差工はコンクリートで作られていますが、石礫の落下による衝撃や落差工内に留まった石礫の転がりによる摩耗を受け、中には深さ20cmほどの窪みができているところもあります。
そこで私は、従来用いられているコンクリートよりも短期間で強度が発現し、摩耗に対する耐久性が高い補修工法の研究を行っています。研究では、石礫の落下による衝撃摩耗や石礫の転がり摩耗に対する補修材料の耐久性を評価するため、試験供試体を使った各種室内試験を実施しています。衝撃摩耗に対する耐久性評価のため実施した落下衝撃試験では、近年水路補修材料として用いられている繊維補強セメントモルタルが、通常のコンクリートに比べて高い耐衝撃摩耗性を有していることを明らかにしました。また、短期間での強度発現性や、実際の石礫に対する耐摩耗性を確認するため、七ヶ用水内の落差工において、ポリマーセメントモルタル(水路補修によく用いられる補修材料)や新しく開発中の補修材料を用いた現地実証試験を行っています。この現地実証試験の結果、開発中の補修材料は施工後2~3時間で人が載っても足跡が付かないほど硬化しており、短期間での強度発現性に優れていることが確認されました。さらに、レーザー式表面粗さ計測装置を用いて定期的に摩耗の進行状況を調査し、補修材料の摩耗に対する長期的な耐久性の評価を行っています。
今後も各種室内試験や現地実証試験により、耐久性の高い補修材料の研究開発を進め、農業水利施設の長寿命化に貢献していきたいと思います。

鋼球を使った落下衝撃試験
コンクリート(落下回数200回)
繊維補強セメントモルタル(落下回数500回)
現地実証試験箇所での摩耗計測