教員紹介

ピンゲラップ語の調査・記述・分析を通して 少数民族言語の保全・継承に貢献

ハットリ リョウコ
服部 良子
教養教育センター 講師
福井県出身。名古屋大学大学院国際開発研究科国際コミュニケーション専攻修士課程修了後、ハワイ大学に留学し、言語学博士号取得。同大学Adjunct Assistant Professorなどを経て、令和3(2021)年から現職。研究分野は言語学。

どのような研究をされているのですか。

ミクロネシア連邦ポンペイ州に属するピンゲラップ島を中心に話されているピンゲラップ語の調査・記述・分析を研究テーマにしています。同島は陸地面積約1.8km2、人口約200人の極めて小さなサンゴ礁の島です。州都のあるポンペイ島やハワイなどに居住している人も含めると話者は2500人程度と考えられています。

かつて人口が約30人にまで減ったことがあり、ピンゲラップ語も消滅の危機にさらされました。幸いにして現状まで人口が増加してきたわけですが、実は口頭言語で、正書法が定まっていません。ピンゲラップ語圏内においても連邦・州政府とのやり取りに国家公用語である英語と州公用語であるポンペイ語が必要になりますし、現地語から英語に比重が移っていくバイリンガル初等教育、ポンペイ語で書かれた聖書の使用と暮らしの多くの側面に上位言語が影響を与えています。ピンゲラップ語圏外への人口流出が続き、小学校卒業後の教育はピンゲラップ語圏外で英語で受けるほかありません。このままではいずれ英語やポンペイ語に駆逐される恐れがあります。

言語現象は人間の営みの発現です。少数民族言語とはいえ、それが消滅することは人間の本質や進化、社会・文化・歴史などを解き明かす貴重な資源の一つが失われることを意味します。アカデミアにとっても大きな損失と言わねばなりません。

私の研究の基本的な目的は、今までほとんど手付かずだったピンゲラップ語の調査・記述・分析を行うことで、文法を詳らかにすることにあります。その成果を文法書や辞書、教材などにまとめ、絶滅が危惧されるピンゲラップ語の保全・継承にも貢献したいと思っています。

ピンゲラップ語話者に出会ったのはハワイ大学留学時です。その後、3回にわたって計1年間ほどポンペイ島とピンゲラップ島に滞在して、現地の人たちと直接交流し、発話データを録音・録画しました。質・量ともに豊かなデータを集め、母語話者の協力を得て分析して規則・構造を見つけ出し、文法記述に挑んでいるわけです。博士論文ではピンゲラップ語の代名詞と助動詞の共時的・通時的研究を行いました。

断片的ではありますが、すでに現地の子供にむけたピンゲラップ語の特徴を学ぶ教材を2冊制作しました。子供たちが母国語の特質を理解し、愛着を育む一助になることを願っています。

今後の抱負をお聞かせください。

上記の言語研究を進めていくことと並行して、本学学生の国際的飛躍を支援したいです。国際協力の分野と触れ合う機会が多くあり、本学のような農学系総合大学で高い専門性と技術を身に着けた人材の国際的需要の高さを強く感じてきました。グローバル・シチズンとして思考・行動する道具としての英語を指導すること、学生が自身の可能性に気が付き世界に一歩を踏み出すことを促すことを目標に学生と向き合っています。本学学生にフィットする各種募集にも目を配り、学生の海外への進路模索の支援に尽力しています。