教員紹介

身近な成分製造から生命現象の解明まで 大腸菌の研究で世界に挑む

ナカガワ アキラ
中川 明
生物資源工学研究所 講師
東京都出身。奈良先端科学技術大学院大学博士後期課程修了(博士・バイオサイエンス)。協和発酵キリン株式会社博士研究員などを経て、平成 29(2017)年4月から現職。専門は大腸菌の転写。

どのような研究をされているのですか。

微生物である大腸菌の働きを利用し、化合物の転換をサポートしたり、手間やコストがかかる希少な有機成分の製造能力を向上させる方法の研究など、幅広く手掛けています。
例えば、化合物 A を化合物 B に転換したい時、大腸菌に特定の遺伝子を入れ込むと可能になります。ただ、この遺伝子は大腸菌の中で過剰にタンパク質を発生させ、構造が不安定になった大腸菌はストレスで死滅してしまいます。そこで研究しているのが、タンパク質が発生した時に死ななくなる大腸菌。死滅しないので、長期間、無駄なく必要な化合物の製造が可能になり、必要とされる化合物の生産量増大が期待できます。
また、大腸菌は製薬の分野でも役立つ仕事ができるのではないかと思っています。今注目しているのは、天然由来の薬物で肺障害を緩和するとされるアポルフィンアルカロイドや、糖尿病に効果があるというベルベリン。アポルフィンアルカロイドは化学合成で造ることも可能ですが、非常に複雑で、天然の植物にもその成分はほとんど含まれていません。これを大腸菌の培養技術を利用すれば、コストを抑えて手軽に生成できるのではないかと考えています。
製薬についてはもう一つ、末期がん患者に投与するオピオイド系鎮痛剤のテバインもターゲットにしています。植物から微量にしか採取できない成分ですが、材料であるケシの遺伝子を大腸菌に入れて大量に生成することも技術的には可能です。先進国と開発途上国が直面する世界的な医療格差の是正にもきっと貢献できるはずです。
具体的な研究を進めている真っただ中のテーマもありますが、大腸菌の培養の働きはさまざまな分野とつながり、発展させることができると思います。

研究で使用している高密度培養が可能な
「ジャーファーメンター」

今後の抱負をお聞かせください。

不思議な縁で大腸菌を扱う研究に取り組むことになりましたが、再現性が非常に高く、白黒はっきりつけてパーンと勢いよく結果を出す大腸菌の潔さには個人的にとても親しみを感じています。最大の目標は、大腸菌の転写をモデルとして、DNA 配列のみによって生命現象が説明できると導き出すこと。そんな世界トップレベルの研究に、気概を持って挑み続けていきたいです。

大腸菌が入ったシャーレ