教員紹介

チェコと日本の女性が輝く未来に ジェンダーの観点で教育構造、制度を比較研究

イシクラ ミズエ
石倉 瑞恵
教養教育センター 准教授
愛知県出身。名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課単位取得退学。名古屋女子大学短期大学部勤務などをへて平成25年(2013)4月より現職。研究テーマはチェコの高等教育と女子教育。

どのような研究をされているのですか。

チェコの歴史や国家・民族的価値観をジェンダーの観点から分析し、女性を差別する構造が生じた背景を日本との比較も交えて研究しています。欧州の中央に位置する小国チェコは、1989年まで社会主義国家でした。社会主義体制の下では、男女関係なく皆労働者として国を支えていましたが、一方で女性には子ども=次世代労働者を増やす役割も期待されていました。その分、出産育児に関する国の保障も手厚く、チェコは女性が生き生きと暮らしている国。そう思って研究を始めましたが、実情は違っていました。男女同じ仕事をしていても女性の賃金は低く、社会主義は女性の地位向上に関係ないのだと感じました。さらに社会主義が崩壊した後は国の保障も不十分になり、疲れ切った女性たちは社会で活躍する意欲も失いつつあったのです。
チェコと日本の女性は、たどってきた歴史に類似点があります。ジェンダー研究の先進国であるフランスを筆頭に、欧米諸国では20世紀中頃から女性自らが声を上げ、地位向上の権利を主張してきました。しかし、長く社会主義の時代が続いたチェコでは自由に表現をするという慣習が廃れていました。一方で、日本人は調和と同質性を大切にする。どちらも声を上げる機会がなかった点で共通しています。その影響は今の時代にも及んでおり、チェコも日本も、女子生徒・学生は、技術系分野など女性の「モデル」が少ない分野への進出を躊躇する傾向にあります。女性は自分でグラス・シーリング(ガラスの天井)を作ってしまうのです。社会主義や日本の高度経済成長期には、それでも社会がうまく循環していましたが、今はそうではありません。国の方針や保障が時代に追いつくことも重要ですが、それらを決定する人の意識を変えることが最も重要。教育こそがその要。教育現場におけるジェンダーの在り方を追究する必要性を感じています。

今後の抱負をお聞かせください。

女性の意識と社会のシステムがどうあれば女性が生きやすくなるのか、そして、ジェンダー・フリー社会に向かう意識を育むには、学校現場はどのような課題を克服しなければならないのかを探っていきたい。日本は少数派を優遇するアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)を推進し女性活躍の場を広げていますが、チェコは草の根から国民の意識を変え、法律を改正することで女性の地位向上を図ろうと一部の機関が先導し実行しています。それぞれの経過について比較研究をしながら、人間が個としてお互いを認め合う社会の創造と人材育成に貢献していきたいと考えます。

チェコ研究のベースとなる文献の数々。
今はもう一般的に手に入らない貴重な書籍も