教員紹介

55年前に南極で発見された担子菌酵母 イヌビエの黒穂病菌の活用

タナカ エイジ
田中 栄爾
環境科学科微生物生態学分野 准教授
千葉県出身。博士(農学)。京都大学大学院農学研究科修了。日本学術振興会特別研究員を経て、平成18年(2006)4月より石川県立大学に勤務。研究分野は「微生物生態学」。日本菌学会理事・Mycoscience誌編集委員長。

どのような研究をされているのですか。

黒穂病菌の生態とその効果を探る研究です。黒穂病菌は主にイネ科の植物に付くもので、トウモロコシの病害菌が広く知られています。病害菌というと「厄介者」のように思われがちですが、植物に寄生する能力を活用すれば、社会にプラスの効果も期待できるのです。1965年、南極で謎の担子菌酵母が発見されました。生分解性プラスチックを分解する高い能力を持つ菌であることは分かっていましたが、研究者の間でその正体は長く不明でした。それが5年前、本学内で植生調査をしていた学生が偶然見つけたイヌビエの黒穂病菌を譲り受け、調べてみたところ、なんと南極で発見された謎の担子菌酵母と遺伝子配列がほぼ同じであることが判明したのです。さらに培養して詳しく調べたところ、南極で見つかった担子菌酵母は、イヌビエの黒穂病菌由来の菌だったのです。半世紀以上の時を経てその正体が分かり、ドラマチックな展開に胸が高鳴りました。後の研究でイヌビエの黒穂病菌にも生分解性プラスチックの作用が確認できました。なぜ南極にイヌビエの黒穂病菌が生息していたのかは分かりません。イヌビエの黒穂病菌は日本を含む東アジア近辺の水田や海などにも生存している身近な菌です。南極で発見されたのも湖の中でした。そのような条件下でも作用する菌ですので、人間が入り込めない厳しい環境下でも大いに働き、廃プラスチック問題などの環境問題の解決に貢献してくれるかもしれません。

イヌビエの黒穂病菌が感染している部分
イヌビエ黒穂病菌の胞子(これが発芽すると担子菌酵母になる)

今後の抱負をお聞かせください。

身近な植物の黒穂病菌を、暮らしの中で有効活用できる方法を探っていきたいと思います。黒穂病菌の研究者は少数です。イヌビエのように、どこにでもある雑草に付く黒穂病菌に目を留める人はなかなかいないかもしれません。また、ひと目見てそれが黒穂病菌だと気付くのに、ちょっとしたセンスも必要です。でも天然甘味料のエリスリトールのような食品成分を大量に生み出す黒穂病菌が実はすぐそこに自生している植物に付いていることも私たちの研究で明らかにしています。一緒に取り組んでくれる仲間が増えたらうれしいです。