教員紹介

手取川流域に流れ込む土砂を防ぐ 菌とヤナギで白山崩壊地の地盤を強化

ヤナイ セイジ
柳井 清治
環境科学科 教授
広島県生まれ。博士(農学)。北海道林業試験場研究職員、同森林環境部流域保全科長、北海道工業大学工学部環境デザイン学科教授を経て、2013年から現職。専攻は流域環境学。

どのような研究をされているのですか。

手取川源流域に2015年発生した地すべり

白山における崩壊地と、そこから崩れ出る土砂の手取川流域への影響を調べています。白山には実は、動きやすい地質条件を持つ部分があり、つい最近では白山源流域で15haにのぼる大規模な地すべりが発生しました。数千年、数百年、数十年と年月を重ねる中で白山は自然現象として動き続けており、「地滑りだらけの山」とも言えます。もちろん、登山者には安全面を確保したうえで開放されていますので、その点はご安心ください。
地滑りによって崩壊した土砂が手取川に流れこみ、川を埋めます。その埋めた土砂が川を削りながら流れ、下流域に流出し、濁水問題を引き起こします。この問題を土の中に住む微生物の働きによって防ぐことはできないか考えています。地中にはたくさんの微生物が住んでいますが、その中でも私達は共生菌に注目しています。共生菌は菌根菌とも言われ、樹木から養分をもらいながら、一方で土に含まれている養分を樹木に与える働きもあります。すると樹木の根が極めて良好に発達し、地中に深く根を張り、土壌改善にもつながります。樹木の根が貧弱だと地面を保持する力も弱まり、地盤の崩壊を引き起こす危険性が高まります。そこで菌の力によって山の斜面の強度を上げ、災害を防げないかと考えています。まずは森林の中にどんな菌がいるのかを調査します。杉だけで構成する単純な人工林や、多種多様な樹木が集まる広葉樹林など、場所によって菌や根の発達に違いがあるのかを調べます。菌を採取し、農場での摂種実験も予定しています。

今後の抱負をお聞かせください。

共生菌の調査と並行し、毎年生産される土砂の対策として、林野庁の石川森林管理署と協力しながら崩壊した斜面にヤナギ類を植える準備を進めています。白山で自生しているヤナギの枝を保管しており、春を待ってヘリコプターで上空からまきます。天然のヤナギはどんなに厳しい条件でも発芽し、標高2千mの場所でも成長が期待できます。ヤナギによって崩壊地の緑化が進み、手取川に流れ込む土砂が減り清流を取り戻せるような研究を進めていきたいと思います。

ススキの根系に感染した内生菌根菌(写真:田 中准教授提供)