研究紹介

千里浜侵食のメカニズムを探る新しい手法―ルミネッセンス法―

環境科学科 准教授
百瀬 年彦

2021年の冬は低気圧に伴う高波が千里浜の砂を激しく削り取り、復旧作業の結果ようやく車の通行ができるようになりました(写真1)。ここ20年間で、千里浜の汀線は最大約50m後退していますが、いつまで「なぎさドライブウェイ」を維持できるでしょうか? 海岸浸食は世界各地で起きておりその背景には温暖化による海面上昇がありますが、人間による河川・海岸の利用にも原因があると言われています。

海岸砂は河川から運び出された川砂が河口に達した後、海流に乗って海域に広がります。それではその移動ルートは? となると、実態はほとんどわかっていません。

ところが、近年砂粒子から直接、移動ルートを解明する研究が進んでいます。それはルミネッセンス(蛍光)法と呼ばれ、砂粒子にエネルギー(熱など)を与えるとそこから光を発する性質を利用します。 当研究室には民間企業と制作した蛍光測定装置があり、砂からの光を光子数としてカウントできます(写真2)。また、面白いことに砂粒子を太陽光に曝すと、光子数は著しく減少することも知られています。したがって、山間部の砂は太陽光にそれほど曝されていないので強い光子数、海岸部の砂は弱い光子数となります。図1に手取川上流から河口、そして海岸線に沿って千里浜、柴垣までの汀線の砂の発光数を示しました。手取川上流から羽咋市柴垣まで見事に連続的に光子数が減少しています。つまり、千里浜の砂は手取川から供給されているのです。

川砂の供給量が減少したり、海岸線で構造物により砂移動が妨害されると千里浜は「痩せる」ことになります。しかし、証明はまだ不十分です。砂は汀線と海の間を行き来しているので、海域を含めた面的な砂移動の把握が欠かせません。当研究室では、今年度から海域も対象に加え、砂粒子の面的な移動の解明を進めています。千里浜の砂浜削剥は今後より深刻になる恐れがあります。ルミネッセンスを用いた砂移動の研究は、千里浜を含む加賀海岸の海岸侵食を考える上で重要な情報を与えてくれることでしょう。

(写真1)千里浜の侵食に対する復旧工事
(写真2)ルミネッセンス測定装置
図1 ルミネッセンスが示す手取川の砂の移動(佐藤ほか、2020を簡略化)